WATOWA 経営メンバーインタビュー 佐藤さん
「UMITO」の1階で「港の食堂 KAN(みなとのしょくどう かん)」のオーナーを務める佐藤聰さん。ローカルフードラボ株式会社 代表取締役を務め、島根・広島県を拠点に「里山イタリアンAJIKURA 本店」「ボクら町のカレー屋さんKOTOKOTO」「釜飯 釜之助」など、飲食店を数店舗経営する傍ら、2023年からWATOWAプロジェクトにも加わる。
ーWATOWAを知ったきっかけを教えてください
出会いは2022年3月に、広島にある知り合いの飲食店の方が、WATOWAのシェアキッチンで出店されてて、紹介を受けたことがきっかけです。「雅子さんが出店する人を探してるよ」って。
だから存在は知っていたんですが、実際にWATOWAのビジネスモデルを聞いた時は「シェフ呼ぶのって大変そうだな」と思っていました。
自分の店を持っているシェフが、短期間でも自分の店を閉めて出店しに行くっていうのは結構厳しいだろうと感じたんです。
だけど、去年3日間だけ試しにやってみたら、思いがけずに人が動いたんです。
最初はとても不安だったんですよ。温泉津の商店街には人が全然歩いてないし、ここ大丈夫か? やっちゃったんじゃないか? みたいな。
でも実際には平気で、1日の売上もしっかりあったので、そこからずいぶん印象が変わりました。
そこからこの場所に興味を持つようになり、街並みもいいし、WATOWAのコンセプトもすごく面白いなと思いました。
ーなぜ、WATOWAに加わろうと思いましたか?
WATOWA法人化のタイミングで、雅子さんが声をかけてくれたんです。
そしたら、あっという間に巻き込まれていったというか。巻き込まれると言ったら言葉が悪いですが、実際雅子さんは太陽みたいな人で、いろんな人が周りにいるんですよね。
その集まった人の先頭をいつも走っている感じ。
そんな中、雅子さんに「飲食もやりたいから、ちょっと力を貸してくれない?」と。
志が強く、サバサバしていて「できないことはできない」ってはっきり言ってくれる人だから、雅子さんに誘われたら「じゃあ、やってみましょう!」と言っていました。
ー温泉津のどんなところに魅力を感じますか?
まずは、プロジェクトに誘われた時に、この場所にすごい可能性を感じました。
波に乗ったというか、なんか面白いことが起きそうだな、みたいな期待感。
温泉や自然といったハード面の魅力はもちろんあるんだけど、多分、そういうところって他の場所にもいっぱいあるんですよね。
だけど、より魅力的に感じたのはソフト面。そこにいる人たちへの印象なんです。
この人たちとだったら、なんかできそうみたいな感じ。
最初は温泉っていうコンテンツの強みを感じていました。
ただ、温泉の質がいいところはいくらでもあるんだけど、温泉津のような立地の環境は他にはなくて。このコンパクトな町のサイズや集まってくる人たちが、絶妙なバランスだと思っています。
町1個がホテルというか、滞在できる施設みたいな感覚になるので、それがやっぱり魅力だと思います。
ーKANをどんなお店にしたいですか?
僕は、どちらかというと、温泉津を外側から見て「自分がビジターだったら、どういうものが必要なのかな」っていうのをずっと考えてたんですね。
「やっぱり温泉津に来たら、海鮮系食べたい」から始まって、だけど、地域の課題を雅子さんから聞くことで、「じゃあ、こういうことも解決できるかな?」とか、「地域の人にも使ってもらって、地域の人がワイワイしてるところに、旅行客も来て、一緒になんか飲んで、新しいコミュニティができあがる」みたいなことをしたいと思っています。
ただ、おいしいもの、安いものとかっていうことではなくて、町にとって意味のある飲食店が作れるなと思ったのは、町の人と話しをしながらですかね。
最初は、数字を念頭に「軽食代をいくらにするか」「何人ぐらいで回して」「客席数が○席だからこれで1日、こんぐらい売り上げて」みたいなことを考えていたけれど、そんなことはまず置いといて、一旦、コミュニティの場としての飲食店と経営っていうのを両立させていくのに、ここはすごい可能性があるなと思うようになりました。
KANが町にとってどういう役割となっていくのかな、みたいなところから立ち上げていきました。ホテルにある飲食店なんだけど、地元の人に愛される食堂みたいなのを目指していきたいと思っています。
ー地元の人に店を愛してもらうために、どんなことを意識していますか?
町の後継について思いのある地元の人と外の人との交流が垣間見れた、WATOWA法人化のレセプションパーティーの様子はすごくわかりやすかったと思います。
だから、なんか食べ物の内容とかじゃなくて、場なんだと思うんですよね。
地域の人にうまく浸透していって、「自由に使っていいんだ!」「もっと気軽に使っていいんだ!」っていう雰囲気を出せたらと思います。
田舎で外食って、晴れの日の行事じゃないですか。
都会に住んでいた頃は、日常的に食べに行くのが当たり前だったけど、田舎って違うんだなと思って。文化を作るという意味で、外食の文化とか、もっと気軽に、こういう場を使ってもらえるようにすれば、僕らがやってる、新しく生み出す文化価値って、あるんじゃないかなと思っています。
だから、食堂っていうのがぴったりなんだなって。
実際は僕らイタリアンがベースの店があるんで、最初はサンドイッチとかピザとか、得意な料理で攻めるのはアリだなと思ってたんですよ。
温泉津には外国の方もいらしているみたいですし。
だけど、地元のおじいちゃんおばあちゃんは、晴れの日の会食には使わないですよね。
あとは雅子さんに「外国人のお客さんもこっちまで来てピザとか食べたくないよ」って言われて、ハッとしました。
都会から来た人も意外とそうかもしれなくて。
温泉津ならではのものが食べたいのに、なんかちょっとこう気取った感じのお店だと、そうじゃないよっていう気持ちになりそうですよね。
ここに来て、ここならではの、ここでしか食べられないものと、この景色とっていうのが、もうそこだけを突き詰めていけばいいんだなと思うようになりました。
ー店づくりの中で印象に残っているエピソードはありますか?
レセプションパーティーにいらしてたご年配の方は、この場所を昔使われてた人たちが多かったらしくて。そこがまずリニューアルされて生き返って、新しい形の料理が味わえるようになって、「また集まれるようになった」というのは、いい話だと思います。
リニューアル中、この場所に縁のある人が、外から気にして見てくださってたんですよね。建物への愛着もあるだろうし、いろいろ思い出話を聞いていたからこそ、その様子にこちらがグッとしてしまって。
ほかにも、地元の人がメニューのアイディアをくれたり。
この場所に思い入れのある人が、当時を思い出してくださるとか。
ここにはいろんな人の思い出があるわけじゃないですか。それをもう一回、僕らがここでアップデートするわけです。
変にかけかえてしまっちゃいけないなとも思うんです。
ー最後にメッセージをお願いします
「UMITO」のオープンを機に、宿の1F で「KAN」という食堂を オープンすることで「食」分野から温泉津に関わるきっかけを もらいました。
「UMITO」が元々温泉津の人たちにとって、同窓会や宴会などが開かれる馴染みの深い建物だったという背景から、「K くう・A あそぶ・ N ねる」という店名に込めた思いの通り、地域の日常を味わえる場所にしていきたいです。